「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」の超荒い要約 その1

 

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

 

 一部で話題になっている「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」を読みました。とても面白かったです。 この本を読んで、色々と疑問に思っていることが解けた気がするのでまず軽く感想と解説を書いて、解けた疑問について次の記事とかで書こうかと思います。

 

 

この本は新井典子先生という数学者が東大に合格することを目標にした「東ロボくん」というAIの開発経緯とその後AIを開発することでわかった現代の教育上の問題点について論じた本です。内容はとてもわかりやすく、かつ数学者らしい断定を避け正確性を重視した文体で書いてあります。

 

この本の内容は大まかに前半と後半に別れます。前半部はAI開発の実際の内容についてです。東大に合格するというミッションをこなすには当然ながら、様々な問題を解かなくてはなりません。2018年現在汎用型のAI(何でもできるAIドラえもんみたいなもの)でこのような問題を解くことは現実的ではありません。ので、特化型AI(Alpha GoとかGoogle 翻訳みたいなもん)を組み合わせることになります。故に問題をどう抽象化し、そして抽象化した問題をどのようなAIで解くのかがキモになります。私は研究で機械学習を使うので、この前半部分が一番面白かったのですが、一般の人にはややマニアックな内容かもしれません。

 

この前半でのkey sentenceは2つあると思っていてそれは

・AIは数学でできている

故に

・AIは意味が理解できない

ということです。

 

AIは数学でできているというのは機械学習のスクリプトを書いたことがある人は納得できると思います。Neural Networkなんかは巨大な行列計算そのものです。そこで、新井先生は逆に数学で表現できないことはAIとして表出できないと論じます。そして数学は、論理、確率、統計の3種類の言葉しか手に入れていないのでAIにも必然限界があると論じるのです。

 

この数学が論理、確率、統計の3種類の言葉しか手に入れていないという言葉は金言であると思います。個人的にこの言葉で色々超スッキリしました。

 

もう一つのkey sentenceである「AIは意味が理解できない」についてですが、ここでそもそも意味を理解してなきゃ翻訳とかできねーだろというツッコミがあります。そこで、翻訳を例に簡単な図で説明してみようと思います。

 

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これは意味が理解できていて、ある文脈上でrainという単語が時雨と翻訳された場合の概念図です。

この場合だとまずRainを抽象的な概念に変換し、その概念から時雨を引っ張ってきます。少し詳し目に言うと言葉はこの世界を切り取るナイフみたいなもんで言語によって切り取る範囲が違います。

ので、ある単語から別の単語に翻訳を行う場合、Rainが切り取っている範囲を確認し、その範囲がわりかし近い日本語の単語を探し出して、まぁ時雨とか妥当じゃねーかなと考えてアウトプットするわけです。

 

これはAIには現在のところ不可能です。何故ならば、言語を概念に変換することが現代の数学では表現できないからです。そもそもRainと時雨が表現している概念とは…という感じです。

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我々の実感としてGoogle翻訳ですら精度は高いわけです。では、どうやっているのか?

 

そもそも翻訳するのに意味が理解できていないといけないのか?

我々が目にしているのはインプットである単語(文)を入れるとアウトプットとして別の単語(文)が出てくるところです。なので、この挙動が正しければ翻訳ができていると判断します。そして、概念への変換が数学では表現が不可能でした。ですので、翻訳を行うには概念を挟まないで正しい(に近い)アウトプットを出せば良いことになります。そしてそれは可能なわけです。それを下に図示します。

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数学を使わずに説明するとあらかじめ英語と日本語で同じ内容を記述した文を大量に用意し、機械学習装置に通しておきます。すると、この機械学装置は前後の単語の並び等からどうも、学習済みのこの内容に近いことを言ってるっぽいなと統計的に判断できるようになり、もっともそれっぽいアウトプットを排出するわけです。

さらに、皆さん分かりやすく超雑に説明すると択一式の試験で問題文を読まずに選択肢から問題を解いたことがありませんか?マーク模試とかe-learningとかです。それと同じようなことを東ロボ君は大規模かつガチでやっていると思って下さい。

余談ですが、筆者はマーク模試で1秒足りとも勉強したことのない地理で上記ののメソッドで90点を叩き出したことがあります。地理の天才だと勘違いして、本番もそのまま無勉で受けたら30点だったわけですがw

 

このへんの翻訳に関するアルゴリズムの話はこっちの本が詳しいです。

 

 

アルゴリズムが世界を支配する (角川EPUB選書)

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長くなってきたので前半をまとめて終わりにします。繰り返しますがkey sentenceは

・AIは数学でできている
・AIは意味が理解できない

です。そして、別に意味を介さなくても、概念理解をしなくても結構な精度で正確なアウトプットを出せる。これが東ロボくんが証明してくれたことになるのです。