現代中国の裏側〜「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄〜

 

「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄 (文春新書)

「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄 (文春新書)

 

 

 

社会運動家について本の2冊めは「「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄」である。この本は訳者の安田峰俊さんの別の作品「さいはての中国」がとても面白かったので、読むことにした本だ。

 

さいはての中国 (小学館新書)

さいはての中国 (小学館新書)

 

 

 

余談だがこの「さいはての中国」の帯にはデカデカといってはいけない!と書いてあり(正直この帯でとても損していると思う)、ヘイト本の類か?と敬遠していたのだけれど、「深センをさまようネトゲ廃人」(筆者は本文中でサイバー・ルンペンプロレタリアートと表現している)というパワーワードに負けて読んだという経緯がある。この本もとても面白いので読んで欲しい。

 

 

さて、「「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄」である。この本は訳者の安田さんが、バンコクで知人のつてで筆者の顔伯鈞氏と出会うことから始まる。
顔氏はもともと、中国共産党の最高学府・中央党校の修士課程で学んだいわゆる共産党のエリートだった。卒業後政府で勤務するも、行政の現場に失望し北京工商大学の副教授に転職。政府組織「公盟」(公民)に加わり新公民運動に参加をしていた。習近平政権の発足と時を同じくして、新公民運動の活動積極化し、顔氏を含む支持者たちが「党官僚の財産公開」を求めて街頭に出るようになっていたことが原因となり、中国当局に追われる身となる。中国各地を2年間にわたり逃亡し、最終的にタイに亡命をする。そして、そこで安田さんと出会うのである。

 

 

「「暗黒・中国」からの脱出 逃亡・逮捕・拷問・脱獄」は顔氏の逃亡劇である。前回書いたマリア・アリョーヒナ

ひとりの女性が革命家になるまでの物語 〜プッシー・ライオットの革命 自由のための闘い〜 - Way to spin the fragment

と違い顔氏は、最初から成熟した人格として描かれている。なので、この本は成長譚ではない。そんな本書の魅力は以下の3点だと思う。

 

1点目はアクション小説としてである。前述の通り、顔氏は中国当局から追われることになるのだが、密航を行なったり、拘束中に隙をみて窓の外から脱走したり、あげく冬のチベットを越えようとしたりとまるでミッションインポッシブルなのだ。これが実際に起こったことだというのだから驚きを禁じ得ない。

 

2点目は中国の辺境の地の旅行記としてである。顔氏は当局から逃げる為に、回族(中国のイスラム教徒)の村や、ミャオ族の自治州、チベット、ミャンマーの軍閥などを旅をする。そして、逃亡の身のため現地に溶け込むためその視点からの描写が面白い。特にミャンマーの軍閥についての記述は勉強になった。

 

最後に顔氏の冷静な思考である。彼は中国当局に追われている身なのに、感情的にならず極めて冷静に現代の中国について分析をしている。本書の「おわりに 原作者より」は必読だ。

 

アクション小説好きにも、現代中国の事情を知りたい人にもオススメの一冊である。

 

追記)顔氏のその後については下記のリンク